2008年03月

2008年03月31日

31回 「オグロ君は殺される」

 杉並署の取調室で“山さん”は革マルの話を始めました。

 「革マルが内ゲバをしているのを知っているか?」

 内ゲバ? 僕が黙っていると、“山さん”は話を続けます。

 「仲間同士で殺し合うんだ」

 殺し合う?! それが本当なら恐ろしいことです。

 「革マルは内ゲバをして仲間を殺す。オグロ君が所属している東労組も革マルだから、内ゲバのようなことをYにやったんだ」

 あまりにもデタラメな決め付けに呆れてしまって反論する気も起きません。

 「オグロ君は殺される。革マル派は『こいつらしくじりやがって』という目で見ているから、殺される」

 僕はがっくりきました。正義の味方で、人の命を守ってくれるはずの警察の人の口から「殺される」という言葉が簡単に出てきたからです。僕が殺される恐れがあるなら、「どんなことがあっても守ってやるからな」と言うのが警察ではないのですか? どうして守ってくれないのですか? それに、僕がいったい何を「しくじった」というのですか? 意味が分かりません。

 あれほど憧れ、かっこいいと思ってきた警察の実態に、僕は落胆しました。

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2008年03月30日

30回 威圧

 ヒゲ弁護士の接見を終え、午後から再び“山さん”の取り調べを受けます。取り調べといっても“山さん”が一方的にしゃべるだけです。

 「東労組は悪い。距離を置け」

 「お前が帰ったらヒーロ扱いされる」

 「オグロ君は革マルに取り込まれる」

 目を合わせ続けるのはイヤなので、目を伏せてネクタイの辺りを見ていました。

 突然「バーン」という大きな音がします。僕はその音にびっくりして見上げると、“山さん”は机の上に置いてある書類を持ち上げて、「バーン!」と音が出るくらいの勢いで置いたのでした。

 “山さん”が書類をパラパラ見ていて、突然それを「バン!」と音を立てて閉じたりもします。「バーン!」という音を立てた“山さん”に、「おい! 聞いてんのか!」と怒鳴られたりもしました。

 大きな音で驚かせて威圧する感じです。こういうことを何度もされました。精神的にいいものではありません。

 そのたびに僕は音にびっくりします。ハッとして“山さん”の目を見ます。“山さん”がまた一方的にしゃべり出すと、僕はまた目を伏せます。

 何もしていないのに、僕はどうしてこんな目に遭わなければならないのか。僕は何もやっていない! 心の中でそう思います。 

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2008年03月29日

29回 激励される側になって分かったこと

 仲間の寄せ書きがいっぱい記された青色のハンカチを見せられ、仲間がそばに来ていると教えられ、僕は声を上げて泣き続けました。逮捕されて以降ずっと孤独感を抱えながら緊張し続けてきたその緊張の糸が切れたのだと思います。

 僕は「檄布」(げきふ)に書いたことは何度もあります。「檄布」というのは赤色の布に寄せ書きをしたもので、春闘で仲間が頑張っている時やほかの労働組合支援の時などに書いていました。僕は今まで当たり前のように書いてきました。

 僕が感動した布は「檄ハンカチ」と呼ばれているとのちに知りました。「檄布」は赤色で大きさもいろいろありますが、「檄ハンカチ」は青色でハンカチ大の大きさです。

 「檄ハンカチ」に書かれた文字は一人ひとり異なっていて、みんなが支えてくれていることがひしひしと伝わってきます。激励される側になって初めて「檄ハンカチ」がこんなにも人を勇気づけるのだと分かりました。

 僕に面会できないと分かっているのにわざわざ杉並署の前まで来てくれている仲間にも胸がいっぱいになりました。僕は仕事の心配はしていましたが、職場の仲間が僕を心配してくれているとは思ってもいなかったのです。

 僕は何もしていないんだ。頑張ろう。ヒゲ弁護士の接見を終えて、そう思いました。

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2008年03月28日

28回 号泣

 「あなたがたとはもう信頼関係を築けない」と僕が言ったので、“山さん”は困ったのかもしれません。「休憩する」と言い残して、取調室を出て行きました。

 取調室に残ったもう1人の刑事(仲村トオルを40歳くらいにした感じの人でした)が僕に話しかけてきました。

 「あの人は本当はいい人なんだぞ。信用できる人なんだ」

 何が「いい人」だ! 真面目に話を聞いてきたのに、わけの分からない内容だし、勝手な決めつけのオンパレードじゃないか。

 お昼に房に戻らされていたところ、カギがガチャガチャと開いて、声がかかりました。

 「7番! 面会! 弁護士!」

 JR東労組の顧問弁護士が来てくれたのです。僕は接見禁止になっていて、家族にも職場の仲間にも会えないのですが、弁護士だけには会えます。

 狭い接見室に入ります。弁護士が接見してくれる時は接見室に警察官の同席はありません。ガラスの仕切りの向こうにヒゲを生やした弁護士がいました。このヒゲ弁護士に僕はのちのちまでお世話になります。

 「奥さんもお子さんも元気ですよ。大丈夫です」

 僕が一番心配していた家族のことを話してくれました。少し安心します。

 それからヒゲ弁護士は青色のハンカチを取り出して、目の前のガラスに広げてくれました。

 ヒゲ弁護士が広げたハンカチは、僕が運転していた京浜東北線と同じ色でした。そこに職場の仲間の寄せ書きがいっぱい載っています。仲間一人ひとりの名前が見えます。「頑張れ」「仲間は支えているぞ」などの文字も見えます。

 僕は思わず立ち上がっていました。ハンカチに両手が伸びます。ガラス越しですがハンカチに手のひらを添えていました。涙がじわっと出てきて止まりません。

 ヒゲ弁護士が言います。

 「杉並署の外にみんな来ている。あとで報告するから帰りなさいと言っても、みんな外で待っているんだよ。仲間が支えているから」

 僕の涙は号泣に変わりました。

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2008年03月27日

27回 信頼関係

 杉並署の取調室で“山さん”のような刑事の問いかけは続きます。

 「小黒君も松崎さんの『鬼の咆哮』を読んでるんだろ」

 『鬼の咆哮』はJR東労組初代本部委員長の松崎さんが書いた本で、毎日新聞社から出ています。少し難しい内容でしたが、石油の権利を争うために戦争が起きているということが書かれていました。

 「どう思った?」

 “山さん”が松崎さんの本まで読んでいるとは驚きです。でも、それと僕は何の関係もありません。そんなことを聞いてどうするの。僕は返事をしません。

 「労働組合がなんで平和運動をやっているんだ?」

 平和は大切です。なんで警察は平和運動をしないのでしょう。警察は戦争が好きなのでしょうか。

 「東労組は全体主義だ」

 仲間が一緒に力を合わせるのは当たり前です。それを「全体主義」という言葉に置き換えると何だか悪いことをしているような感じがします。

 労組の話から突然変わって、会社を辞めたYの話になります。

 「Yをいじめただろう」

 「違います!」

 「いろいろ思惑があるのだろうけれど……」

 僕の中で怒りがこみ上げてきました。強制的にこんな状態にされて、それでも誠心誠意対応し、分かることはきちんと答えてきたのに、「思惑がある」とはどういう言いぐさだ。

 僕は“山さん”にこう言いました。

 「あなたがたとはもう信頼関係を築けない」

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2008年03月26日

26回 刑事の変な質問

 杉並署の取調室で“山さん”に似た刑事が奇妙なことを聞いてきました。

 「東労組は中国に小学校をつくっているけれど、何でつくっているか分かるか?」

 JR東労組は中国に小学校をつくろうと職場に呼びかけ、「1人1週間10円カンパ」を進めてきました。街頭でも募金を呼びかけ、今では19の小学校ができています。僕も10円カンパしたことがあります。それを「何で」と言われても意味が分かりません。僕は黙っていました。すると、刑事は角度を変えて聞いてきました。

 「何でアフリカじゃないんだ?」

 は? きょとんとしてしまいました。ますます意味が分かりません。そんなことは僕には関係ありませんし、理由など知るわけがありません。アフリカでもよかっただろうと言われれば、そうですねと答えるしかありません。

 かつて日本は中国に侵攻して大きな迷惑をかけました。そんなことを二度と繰り返さないよう、平和を願って中国と新しい民間交流をしようということでJR東労組が始めた活動が中国に小学校をつくる活動です。

 しかし、“山さん”はそう見ていませんでした。「革マルの思想はマルクス、レーニン、エンゲルス、スターリン、そして中国の毛沢東から日本に来ている。だから革マルの東労組は中国に小学校をつくっているんだ」

 初めて聞く話です。一方的に決めつけられても困ります。

 アフガニスタンの子供が冬を越せないということで開かれたチャリティコンサートに行ったりカンパしたりしたこともあります。僕にとっては中国でもアフガニスタンでもアフリカでもアメリカでもどこでもいいのです。平和のため、子供たちの幸せのため、カンパの呼びかけがあればそれに応じて僕はカンパしてきたつもりです。そういう行動は大切なことだと僕は思っています。小さなことでも社会に貢献する気持ちを持つのは大切なことではないでしょうか。

 のちに分かったことをここに書き留めておきます。僕のほかに逮捕された仲間がいますが、当時そのご家族が心配のあまり警察に駆けつけたところ、警察から「東労組は中国にアジトをつくっている」と言われたそうです。そのご家族は警察の言葉を真に受けて、「その時は東労組を怖いと思った」と言っていました。警察が「中国」に固執する点で僕の経験と重なるものがあります。

 さて、取調室に話を戻します。刑事の話を聞きながら、「そんなの大きなお世話だよ。だったらあなたが職場でアフリカの子供のためにカンパを集めればいいなじゃいか」と僕は思いました。

 でも、取調室でこういう話を僕が刑事にする余裕はありませんでした。細いクモの糸のようなものが僕の体に絡まってきて、僕をがんじがらめにして、僕を押しつぶそうとしているような感じがして、ただただ怖いのです。この数日間、僕が「違う」と声を上げても誰も真正面から受け止めてくれませんし、誰も助けてくれません。無力感だけが残るのです。

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2008年03月25日

25回 心臓がバクバクし始める

 杉並署の取調室――。僕に黙秘権がないかのように刑事が言い放ち、僕は怖くなりました。そして、心臓が急にバクバクし始めました。

 僕は容疑者の立場に無理矢理置かれていて、僕を理解しようという意思のない刑事に取り調べられています。もう1人の刑事は何かメモを取っています。いったい何を書いているんだろうと気になります。今振り返ると、こんな緊迫した状況は初めてです。経験したことのない異様な雰囲気にやられて、心臓の動きが早くなったのだと思います。

 刑事が話し出します。

 「革マル派というのは、(なんとかかんとか)同盟(なんとかかんとか)マルクス(なんとかかんとか)と言うんだ」

 正式名称を教えてくれたようですが、初めて聞く言葉ですし、興味もありません。そのうえ極度の緊張を強いられていますから僕にはきちんと聞き取れません。

 「革マル派は暴力革命を目指している集団だ」

 僕は革マル派が何をしている人か知りませんでした。暴力と言われて「えっ?!」と思いましたが、僕が危害を加えられたことはありませんし、そういう危険を感じたこともありませんから、まぁいいんじゃないのという感じで聞くだけで、実感が全くありません。

 「革マルの思想はな、マルクスからレーニン、ドイツのエンゲルス、そしてスターリン、中国の毛沢東、それが日本に来て松崎だ」

 スターリンは歴史の教科書の「ヤルタ会談」のところで出てきた人だと分かりました。マルクスや毛沢東という名前は知っていますが、何をした人なのか分かりません。エンゲルスに至っては「誰?」という感じです。

 松崎さんがJR東労組の初代本部委員長ということは知っていますが、それが歴史の教科書に載っていた「ヤルタ会談」のスターリンなどとどういう関係にあるのかどうにも分かりません。

 圧迫感のある狭い取調室で、刑事の一方的な話が続きます。僕の心臓のバクバクは収まりません。

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2008年03月24日

24回 怖い

 11月4日です。勾留延長の初日、逮捕から数えると4日目を迎えました。

 房での朝食のあと、ガチャガチャと房のカギが開く音がして、担当さんの声が響きました。

 「7番、調べ!」

 手錠と腰縄をされて留置場を出ます。同じフロアにある刑事部屋を横切ったところにある取調室に入ります。手錠は外されますが、腰縄はつけられたままです。

 取り調べが始まりました。僕を調べる刑事はは50代の男性です。この刑事はテレビドラマ「太陽にほえろ!」で渋い役をしていた山さん(露口茂)を細くした感じです。ほかにもう1人、刑事がいます。

 山さん風の刑事が問いかけ口調で聞いてきました。

 「Yについてどう思う?」「Yが会社を辞めたことをどう思う?」

 またY君の話です。Y君は自分の意思で会社を辞めたのに、僕と何の関係があるのか分かりません。さらに聞いてきました。

 「お前は革マルか?」

 またその話か。僕はうんざりしながら答えます。

 「違います」

 しかし、刑事は自分の主張を話し続けます。

 「JR東労組は革マルだ」

 刑事はさらにこう言ってきました。

 「オレはプロの取調官だから、簡単には黙秘させない」

 怖い。このとき僕は心底から怖いと思いました。

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2008年03月23日

23回 離婚される心配

 杉並署留置場に戻りました。記録によるとこの日は14時53分に房を出て、20時5分に戻ってきています。

 留置場の中には時計がないので正確な時間が分からないのですが、房の中で食べる夕食は17時ごろだったのではないかと思います。この日は20時ごろ戻ってきましたから、房での夕食は終わっています。そこで、また喫煙室でねずみ色のゴムマットを敷いて、一人での夕食です。しかし、やっぱりのどを通りません。

 形だけの夕食を終えて房に入ると、前科11犯の人が声を掛けてきました。

 「どうだった?」

 「10日間延長になりました」

 「そうか」

 横になったのですが、10日間延長のショックが大きくて眠れません。10日間は長い。でも、あと10日でここから出られる。そう思わないとやっていけません。そもそも僕は労組にも裁判所にも興味がなかったので、こうなってしまうと何をどうすればいいのか見当もつかないのです。

 家族のことが心配になってきました。

 妻から離婚されるのではないか。子供が交通事故に遭ったらどうしよう。これでは家庭が崩壊してしまう。

 今まで考えたことのない想像が次々に浮かんできます。しかも、悪い方向に考えてしまいます。眠れない夜がまた始まります。

ogurojru at 15:10|PermalinkComments(5)この記事をクリップ! 2002年11月3日は裁判官のところへ 

2008年03月22日

22回 なぜだ!

 わけもわからないまま逮捕されたにもかかわらず、それでも僕は今までずっと誠実に対応してきたつもりです。それなのに、勾留を10日間も延長され、弁護士しか面会できない「接見等禁止決定」も加えられ、納得がいきません。こんなことではもう協力できません。

 僕が「いらないです」と答えたところ、書類を持ってきた男性は自分でその書類の余白に「受領拒否」と書いてどこかに持っていきました。

 2〜3日で自宅に帰れるという思いで今日までやってきました。その思いが打ち砕かれた僕は、ただただ落胆するばかりです。

 裁判官は真実を見抜く人だと思っていました。そんな権威ある人が僕に警察の留置場でさらに10日間過ごすことを決め、弁護士しか会えないという接見禁止を決めたのです。真面目に暮らしてきた一人の人間の普通の生活を一方的に奪っておいて、どうしてこんな決定をするのでしょう。

 どうして警察や検察の言うことを重視するんだ。違う。そうじゃないんだ。僕が否定しているのに誰も聞いてくれない、真実が裁判官に伝わらない、そのもどかしさ、悔しさ、じれったさ。ネバネバした糸で自分の体ががんじがらめになっていくような感じで、気が遠くなっていきそうです。

 裁判所から杉並署に戻る車の後部座席で、僕はずっと混乱していました。なぜだ、なぜなんだ、何なんだこれは、と。

接見等禁止決定の書類
【僕が「いらないです」と言ったので、裁判所の人が「受領拒否」と書き込んで持って行った接見等禁止決定の書類】=写真をクリックすると、写真が大きくなります

ogurojru at 11:13|PermalinkComments(2)この記事をクリップ! 2002年11月3日は裁判官のところへ 
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